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東京地方裁判所 平成10年(ワ)11353号 判決 1999年5月10日

原告 株式会社ヤマコー

右代表者代表取締役 A

右訴訟代理人弁護士 綿引光義

被告 サン・グリーン株式会社

右代表者代表取締役 B

右訴訟代理人弁護士 塚邉重雄

主文

一  被告は原告に対し、金一五〇万円及びこれに対する平成一〇年五月二七日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の請求

主文同旨

第二事案の概要

一  争いのない事実

本件は、ゴルフ場会員入会契約に伴う預託金の返還請求事件であり、次の事実は当事者間に争いがない。

1  被告は、ゴルフ場の経営、ゴルフ場会員権の売買、観光事業及び飲食店の経営等を目的とする株式会社である。

2  原告(旧商号・後藤鋼板株式会社。平成元年八月一日付けで現商号に変更)は、被告との間で昭和六二年九月一四日被告経営のゴルフ場茨城クラシックカンツリー倶楽部(以下「本件ゴルフ場」という)に法人正会員として入会する旨の契約を締結し、同日被告に対し入会金三〇万円を支払うとともに、会員資格保証金一五〇万円(以下「本件保証金」という)を一〇年間据置(以下右据置期間を「本件据置期間」という)、無利息の約定で預託するとの合意をした。

3  原告は被告に対し、昭和六二年九月一四日本件保証金預託方法として、完済までの年五分の割合による利息金合計二二万五〇〇〇円を付加した合計一七二万五〇〇〇円を総額面とする三六枚の約束手形(支払期日はいずれも同月から平成二年九月までの毎五日である。以下右手形三六枚を併せて「本件手形」という)を被告に交付し、右手形はすべて約定どおり決済された。

二  原告の主張

1  原告は被告に対し、本件据置期間が平成九年九月一四日の経過により満了したので、平成一〇年五月六日到達の内容証明郵便により、右到達の日から二〇日以内に本件保証金の返還を求める旨の意思表示をした。

しかし、被告は右催告期限を徒過するも右返還をしない。

2  よって、原告は被告に対し、本件保証金一五〇万円及びこれに対する返済期限の後である平成一〇年五月二七日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

三  被告の主張(弁済期の未到来)

1  本件据置期間の起算日は本件ゴルフ場の正式開場日である平成二年一〇月二八日の翌日と合意されており、したがって右期間の満了日は平成一二年一〇月二八日となる。これは本件ゴルフ場の会則(茨城クラシックカンツリー倶楽部会則。以下「本件会則」という)七条二項に「正式開場した後、満一〇年間据置き」とあることに基づくものである。

2  原告は本件会則を受領していないというが、原告は入会手続を被告が委託しているゴルフ会員募集会社を介して行っているところ、右募集会社は入会勧誘に当たり、「募集用の案内パンフレット」、「ローン購入の場合の案内書」、「現地の地図」及び「会員規則」を一揃えにして入会者に交付しているのであるから、原告にのみ本件会則の交付がなかったということはあり得ない。また、原告は入会申込書に「会則承諾の上」と記載して申し込んでいることからも原告が本件会則に拘束されることは明らかであり、原告の右主張は理由がない。

四  被告の主張に対する原告の反論

原告は本件会則の交付を受けていない。原告が本件入会契約時に受領したものは会員資格保証書のみであり、本件保証金の返還を求めた際初めて本件会則を示され、その存在を知ったものである。

すると、本件据置期間の起算日は会員資格保証書の記載により解釈すべきものであるところ、これには「お預り金は一〇ヶ年を据置とし」と記載されている以上、預託日の昭和六二年九月一四日を右起算日とすべきことは明らかである。

五  争点

本件据置期間の起算日は昭和六二年九月一四日か。

第三争点に対する判断

一  原告は、本件据置期間の起算日を本件入会契約の日で本件手形の交付日である昭和六二年九月一四日であると主張し、その根拠を会員資格保証書の記載に求める。

そこで検討するのに、本件会員資格保証書には、まず本件保証金は本件会則(文言上は「茨城クラシックカンツリー倶楽部の規定」とあるが、証拠(乙一)上右規定に該当するものは本件会則と認められる)に基づき受領したものであることを記載するのに続けて「但しお預り金は一〇ヶ年を据置とし利子はつきません」と記載されていることが認められるが(甲一の1)、右据置期間の起算日自体に関する記載はない。右起算日を明確に規定しているのは本件会則七条二項のみであり、それによれば「保証金は、当倶楽部が正式開場した後、満一〇年間据置き」とあることが認められる(乙一)。

二  ところが、原告は、本件入会契約に当たり本件会則の交付はもちろんその内容を全く告知されていないから、本件据置期間の起算日の判断につき本件会則の適用はない旨主張するので検討を進める。

前記認定に証拠(甲一の1、五、乙二、原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、被告から本件ゴルフ場の入会募集手続の委託を受けていた共和グループ共和企画代表者C(以下「C」という)から、本件ゴルフ場の会員権購入について勧誘を受け、昭和六二年九月四日、入会申込書を用いて本件ゴルフ場への入会を申し込んだこと、その際原告はCから本件会則を見せられたことも交付を受けたこともなく、また本件保証金の据置期間について説明を受けることもなかったこと、原告は本件手形金全額を弁済した後である平成二年九月ころ、被告から、本件手形の交付日である同月一四日の日付けの本件会員資格保証書の送付を受けたこと、原告は他に本件据置期間に言及する書類の送付もなく、また、右に関する説明も受けなかったことから、本件会員資格保証書及び本件手形の交付日等から、本件据置期間を同日から一〇年間と認識したこと、その後本件保証金の返還請求に対する被告の対応に接するまで、被告から本件会則の送付も、同会則で本件据置期間の起算日が正式開場の日とされていることの告知はなかったことの各事実が認められる。

被告は本件入会契約時に本件会則の交付があったと主張するが、その裏付けとして提出する証拠(乙六)は入会時の一般的な取扱いを述べるにとどまるものであって右交付の事実を認めるには足りず、他に右交付の事実を裏付ける証拠はない(予定されていた証人Cは尋問期日に合理的な理由もなく出頭していない)。

三1  以上の事実からすると、原告は本件会則に定めた保証金の返還時期の定めについてこれを知る機会はなかったものと認められる。すると、原告については本件据置期間の合意内容の解釈は唯一の交付書面である本件会員資格保証書の合理的解釈に従うべきものというべきところ、右書面には本件保証金を一〇年間据置く旨記載しながら、その据置期間の始期を特定する格別の記載がないことからすると、本件保証金の預託日(本件手形交付日)である本件会員資格保証書に記載された作成日付の昭和六二年九月一四日(本件手形交付日)から起算して一〇年間据え置くものとの合意がされたものと解するのが相当というべきである。

2  なお、前記認定のとおり本件会員資格保証書(甲一の1)には本件保証金を本件会則に基づいて預託されたこと、また、入会申込書(甲二)には本件会則を承諾することの各記載があるが、いずれも本件据置期間に具体的に言及したものではないから、本件保証金返還請求権が会員にとって重要な権利であることを併せ考慮すると、右の程度の記載文言をもって前記認定を妨げるには足りないというべきである。

四  よって、本訴請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴法六一条を、仮執行の宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 藤村啓)

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